泥染
鹿児島県・奄美大島に伝わる天然染色技法「泥染」は、テーチ木(車輪梅)のタンニン分と泥田の鉄分が化学反応を起こすことで、繊維を茶色から黒に染め上げる技法です。まずテーチ木の煮出し液で布を染め、次に鉄分を多く含む泥田の泥を揉み込むようにして反応させます。この工程を交互に数回から十数回、時には数十回繰り返すことで、色が徐々に深まり、繊維に定着していきます。
染色に用いられる泥田は、火山性の地質に由来する奄美特有の赤土が長い年月をかけて沈殿・分解されたもので、鉄分を多く含みながら粒子が非常に細かく、繊維に染料が入り込みやすい性質を持ちます。泥の鉄分が不足する場合は、ソテツの葉などを加えて補うこともあります。
土地に根ざした植物と土を組み合わせたこの染色法は、奄美の風土に育まれた独自の文化です。地質や植生の条件、そして時間と手間を惜しまない工程を通じてのみ得られる、重層的で深みのある色合いが生まれます。
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